夫を介護する妻の孤独―老々介護、定年後に始まった長い一日

体験談・インタビュー

夫を介護する妻の孤独を感じる庭先の写真

介護体験談として、夫を介護する妻の孤独や、定年後に生活が一変した現実を伺う機会がありました。今回は、老々介護のなかで気持ちがすり減っていったAさん(仮名・65歳)にお話を伺いました。私自身も両親をほぼひとりで見送った経験があるので、Aさんの言葉には共感するところが何度もありました。

定年後に始まった夫の介護―老々介護のなかで感じた孤独と、そこから見えたこと

定年後に始まった夫の介護―老々介護のなかで感じた孤独と、そこから見えたこと

Aさんの介護は、夫の定年退職から2年ほど経ったころに始まりました。もともと元気だった夫が、ある朝から急に立ち上がるのがつらそうになり、そこから徐々に生活のあらゆる場面で手助けが必要になっていったそうです。「まさか自分たちがこんなに早く介護をする側になるとは思っていなかった」というのが、Aさんの偽らざる感想でした。厚生労働省の国民生活基礎調査(2025年)では、要介護者を自宅で介護する同居家族のうち65歳以上どうしのいわゆる老老介護が6割を超えるとされています。Aさん夫婦も、まさにその数字のなかの一組だったわけです。

「まだ大丈夫」と思っていた矢先に

「まだ大丈夫」と思っていた矢先に

最初のうちは、Aさんも「年齢的なものだろう」「そのうち落ち着くだろう」と楽観していたといいます。ところが数か月のあいだに、夫がひとりで入浴するのを怖がるようになり、夜中に何度も起きてトイレへ付き添うようになりました。「あのときもっと早く地域包括支援センターに相談していれば」という後悔を、Aさんは今でも口にします。介護は「まだ大丈夫」と思っている期間ほど、静かに進んでいくものなのかもしれません。

老々介護のリアル―体力も気力も追いつかない

Aさん自身も60代半ばで、若いころのようには体が動きません。夫の体を支えて歩くだけでも腰に負担がかかり、整形外科に通うようになったそうです。「介護する側が先に倒れたら、それこそ共倒れになる」という危機感は常にあったものの、目の前のことで精一杯で、自分の体調を後回しにしてしまう日々が続きました。老々介護では、介護する側も高齢者であるという単純な事実が、想像以上に重くのしかかってきます。

夫の体を支える場面が多いと、どうしても介護する側の腰への負担は避けられません。移乗や歩行の介助のときに体重を分散させてくれる介助ベルトを使うと、腰の負担を少し軽くできることがあります。無理をする前に、こうした道具に頼ってみるのも一つの方法です。介助ベルト(移乗・腰痛対策)をAmazonで探す

定年後、二人きりの生活で募った孤独

定年後、二人きりの生活で募った孤独

夫が現役だったころは、仕事の付き合いや趣味の集まりで外に出ていく機会が自然とありました。ところが定年後は、夫婦二人だけで一日中顔を合わせる生活に変わり、そこに介護が重なったことで、Aさんの世界は自宅とかかりつけ医の往復だけになっていったといいます。「友人と気軽にランチに行く余裕もなくなり、気づけば誰とも介護の話をできないまま何か月も過ぎていた」。定年後の介護生活は、社会とのつながりが一気に細くなる時期でもあるようです。

誰にも言えなかった負担、限界を感じた瞬間

子どもたちは遠方で暮らしており、頻繁に頼ることは難しい状況でした。Aさんは「自分が我慢すれば済む話」と考え、しばらくのあいだ誰にも本音を話さずにいたそうです。ある晩、些細なことで夫にきつい言葉を投げてしまい、そのあと自己嫌悪で涙が止まらなくなったことが、Aさんにとってひとつの転機になりました。「これはもう、自分ひとりで抱えられる範囲を超えていると気づいた」と振り返ります。

地域包括支援センターに相談して変わったこと

その出来事のあと、Aさんは思い切って地域包括支援センターに相談したそうです。ケアマネジャーとつながり、介護保険サービスを使ってデイサービスや訪問介護を取り入れたことで、Aさんがひとりですべてを背負う時間は少しずつ減っていきました。「相談したところで状況が劇的に変わるわけではないけれど、話を聞いてもらえるだけで気持ちがだいぶ楽になった」とAさんは話します。制度や支援の内容は自治体によって差があるため、まずは地域の窓口に問い合わせてみることが、孤独を和らげる最初の一歩になりそうです。

ひとりで抱えなくていい―これから介護をする人へ

ひとりで抱えなくていい―これから介護をする人へ

Aさんは最後に、「介護は誰にでも起こりうることなのに、当事者になるまでは誰にも相談していいと思えなかった」と話してくれました。夫を介護する妻という立場は、家庭の中では見えにくく、周囲に気づかれないまま孤独を抱え込みやすい面があります。定年後の暮らしが一変したと感じたときこそ、早めに専門機関へ相談することが大切です。完璧を目指さず頼れるものは頼ることが、長く続く介護生活を支える力になるのではないかと感じました。

日々の様子やケアマネジャーとのやり取りをメモしておける介護記録ノートがあると、相談のときに状況を整理して伝えやすくなります。ひとりで抱え込まず、記録を通じて気持ちを整理する手助けにもなりそうです。介護記録ノートをAmazonで探す

Aさんの話を聞きながら、私自身が両親の介護でひとりで抱え込んでしまった日々を思い出しました。介護のかたちは家庭によってさまざまですが、「孤独を感じているのは自分だけではない」ということが、少しでも伝われば嬉しく思います。

写真:Robin Noguier via Unsplash