
「また同じことを聞いてきた。さっきも答えたのに…」
「つい怒鳴ってしまって、その後ひどく自己嫌悪になる」
こうした声は、認知症の親を介護する40代から繰り返し聞こえてきます。認知症の介護で「接し方」を間違えても、それはあなたの人格の問題ではありません。正しい対応方法を知らないまま介護しているだけです。この記事では、場面別の具体的な接し方と、やってはいけないこと、そして長続きするための仕組みを解説します。
- 認知症の家族への接し方は「否定しない・受け入れる・安心させる」が基本
認知症の家族への接し方は「否定しない・受け入れる・安心させる」が基本
認知症の方との関わり方は、国立長寿医療研究センターなどの専門機関も「急がせない・驚かせない・自尊心を傷つけない」を基本原則として挙げています。家族向けに実践的にまとめると、次の3点が土台になります。
- 否定しない:本人の言葉や行動を頭ごなしに否定しない
- 受け入れる:事実と合わなくても、まずその感情を受け止める
- 安心させる:「ここは安全」「あなたのそばにいる」という感覚を伝え続ける
認知症の「困った行動」は病気の症状(BPSD)です
認知症には、記憶障害・見当識障害などの「中核症状」と、それに伴って現れる「周辺症状(BPSD:行動・心理症状)」があります。
| BPSDの例 | 具体的な表れ方 |
|---|---|
| 繰り返し行動 | 何度も同じことを聞く、同じ話を繰り返す |
| 帰宅願望 | 施設や自宅にいても「家に帰りたい」と言う |
| 被害妄想 | 「財布を盗まれた」「誰かに狙われている」と訴える |
| 易怒性 | 急に怒り出す、攻撃的になる |
| 徘徊 | 目的のない外出や夜間の歩き回り |
重要なのは、これらが「性格の問題」や「意地悪」ではなく、脳の機能低下が引き起こす病気の症状だという点です。この前提を理解するだけで、接し方は大きく変わります。
場面別・認知症の親への正しい接し方
①何度も同じことを聞く
| NG対応 | 効果的な対応 |
|---|---|
| 「さっき聞いたでしょ」「また?」と指摘する | 毎回初めて聞いたように答える。答えを紙に書いて見える場所に貼っておく |
記憶障害により「聞いた事実」が残っていないため、本人には「初めて聞いている」感覚です。指摘を繰り返すと不安・怒りが増幅されます。
②「家に帰りたい」と言う(帰宅願望)
| NG対応 | 効果的な対応 |
|---|---|
| 「ここが家でしょ」と論理で説得する | 「帰りたいのですね」とまず受け止め、「お茶を飲んでからにしませんか」と別の行動に誘導する |
帰宅願望は見当識障害が原因です。論理で説得しても伝わらず、かえって感情を刺激します。共感してから別の関心に意識を向けることが有効です。
③「財布を盗まれた」(被害妄想)
| NG対応 | 効果的な対応 |
|---|---|
| 「そんなはずない」「自分でしまったんでしょ」と否定する | 「大変でしたね、一緒に探しましょう」と共感し、探す過程で話題を変える |
被害妄想の根底には不安・孤独感があることが多く、否定されると不安がさらに強まります。妄想の内容よりも「この人は自分の味方だ」という安心感を与えることが優先です。
④急に怒り出す(易怒性)
| NG対応 | 効果的な対応 |
|---|---|
| その場でなだめようとする、原因を問い詰める | 安全を確保した上で数分その場を離れ、感情が落ち着いた頃に戻る |
感情が高ぶっているときに何を言っても状況を悪化させます。一時的に距離を置くことで状況をリセットできます。
⑤徘徊・外出しようとする
| NG対応 | 効果的な対応 |
|---|---|
| 「危ないから」と強引に引き止める | 「一緒に行きましょう」と付き添い、短い散歩に切り替える。玄関センサーを設置して把握しやすくする |
強引な制止は抵抗・転倒リスクを高めます。徘徊センサーやGPS端末の活用も並行して検討しましょう。
親の介護をはじめる人へ伝えておきたい10のこと(Amazon) — 認知症の接し方から制度の使い方、家族の心構えまで、介護を始めた40代に必要な知識がコンパクトにまとまっています。「どう関わればいいかわからない」という不安に寄り添う一冊です。
認知症の家族に絶対言ってはいけない言葉・やってはいけないこと
家族が無意識に行ってしまいがちなNG行動を整理します。これらは認知症の方の症状を悪化させ、介護をより困難にします。
- 頭ごなしに否定する:「そんなことはない」「おかしいことを言っている」という否定は、本人の不安を倍増させます
- 「さっき言ったでしょ」と指摘する:記憶がないため通じず、傷つけるだけです
- 急かす・せかす:動作が遅いのも症状のひとつです。焦らせると混乱が増します
- 複数の指示を同時に出す:「洋服を着て、薬を飲んで、準備して」のような複数指示は処理できません。一つずつ、短く伝えてください
- 「なぜできないの?」と問い詰める:できないのは病気が原因です。責める言葉は自尊心を傷つけ、意欲をさらに奪います
「怒鳴ってしまった」「また自己嫌悪になった」あなたへ
認知症の家族を介護している方から最もよく聞く悩みのひとつが、「感情的に怒鳴ってしまい、そのあと深く後悔する」というものです。
まず知っていただきたいのは、怒鳴ってしまうことはあなたが限界近くまで頑張っている証拠だということです。慢性的な睡眠不足、終わりの見えない介護、孤立感——これらが重なれば誰でも感情の制御が困難になります。
認知症の方は、怒鳴られた事実は忘れても、そのときの「怖い・嫌だ」という感情の記憶は残りやすいとされています(国立長寿医療研究センター参照)。頻繁に怒鳴ってしまう状況が続いている場合は、意志力に頼らず仕組みで解決することを優先してください。
- 感情が高ぶる前に5分だけその場を離れる習慣をつける
- 週に一度、デイサービスや訪問介護を使って「ひとりの時間」を確保する
- 「完璧に接しなければ」という義務感を手放す

認知症ケアを長続きさせる3つの仕組み
在宅での認知症介護を継続するために、次の3つの仕組みを早い段階で整えることをお勧めします。
① ケアマネジャーへの早期相談
認知症の在宅介護では、ケアマネジャー(介護支援専門員)が中心的な相談役になります。「接し方がわからない」「夜間の徘徊が増えた」「自分が限界」——こうした悩みをケアマネに伝えることで、専門機関への紹介や介護保険サービスの調整が進みます。遠慮なく相談してください。
② デイサービス・ショートステイの活用
デイサービス(通所介護)を週2〜3回利用するだけで、家族の介護時間は大幅に減ります。「施設に預けることへの罪悪感」を持つ方も多いですが、家族が疲弊すると介護の質が低下します。本人の安心できる生活を長く続けるためにも、サービスの利用は「手抜き」ではなく「戦略」です。
③ かかりつけ医・認知症専門外来との連携
BPSDが激しい場合(攻撃性・夜間徘徊・幻覚が続くなど)は、適切な医療的介入が症状を大幅に改善することがあります。かかりつけ医への相談、または認知症専門外来(もの忘れ外来)への受診を検討してください。
※薬の選択・使用については必ず医師にご相談ください。
介護日誌・記録ノート(Amazon) — 毎日の様子・BPSDの出現パターン・薬の服用記録をつけることで、ケアマネや医師への相談がスムーズになります。認知症ケアの改善を記録として積み重ねるためにおすすめの一冊です。
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まとめ:今日から始める3つの接し方の原則
認知症の家族への接し方は、次の3点に集約されます。
- 否定せず、まず受け止める:事実より感情を優先。「そうですね」から始める
- 短く・ひとつずつ・穏やかに伝える:「急がせない・驚かせない・傷つけない」の3原則
- 自分ひとりで抱え込まない:ケアマネ・かかりつけ医・デイサービスを早めに動員する
認知症介護に「完璧な対応」はありません。まず明日、ケアマネジャーに現状を伝える電話を一本かけてみてください。そこから支援の輪が広がっていきます。

