
高齢者の食中毒を家庭で予防する3原則と介護家族の実践ポイント
高齢者の食中毒は、家庭での予防がいちばんの守りになります。厚生労働省の食中毒統計によると、2025年の食中毒患者数は24,727人と前年の約1.7倍に増え、亡くなった方も2名いらっしゃいました(出典:厚生労働省「食中毒統計資料」)。
特別養護老人ホームの厨房で15年、毎日100名を超える高齢者の食事を作ってきた調理師として、先に結論をお伝えします。ご家族がやることは、予防の3原則「つけない・増やさない・やっつける」の実践です。具体的には①親が一人で食べる昼食、②週末の作り置き、③親の冷蔵庫、という3つの生活シーンに落とし込みます。難しい知識をそろえるより、この3か所を押さえるだけで家庭のリスクはぐっと下がります。仕事をしながら親の介護をしている方ほど、目の届かない時間が長いぶん「仕組みで守る」発想が役に立ちます。
高齢の親は、胃酸の分泌や免疫力が低下しているため、若い人なら何ともない量の菌でも発症し、重症化しやすいとされています。施設の厨房が温度管理に神経質なのは、まさにこのためです。細菌性の食中毒は気温と湿度が上がる梅雨から夏が最盛期です。だからこそ6月の今、ご家庭でも同じ考え方を取り入れてください。この記事では、3つのシーンごとに今日からできる予防策を順番に紹介します。
週末の作り置きはウェルシュ菌対策が9割|小分け急冷と「沸騰まで再加熱」
週末にまとめて作り置きをするご家庭で、いちばん危ないのがカレーや煮物を「鍋のまま常温で一晩」です。家庭の食中毒で見落とされがちなウェルシュ菌は、芽胞(がほう・熱に強い殻のような状態)を作るため、一度加熱しても死にません。鍋が冷めていく45℃前後の時間帯に一気に増えるので、「加熱したから大丈夫」は通用しないのです。
対策は3つです。①浅い容器に小分けして急冷する、②冷蔵は2日以内に食べきり、残りは冷凍する、③再加熱は底からかき混ぜながら、全体がグツグツ沸騰するまでしっかり火を入れる。電子レンジだけだと加熱ムラが出やすいので、鍋に移して混ぜながら温め直すのが確実です。
厨房でも、深い寸胴のままでは粗熱(あらねつ)が何時間も抜けないので、必ず浅いバットに移して冷まします。家庭なら深いタッパーより浅めの保存容器を選び、保冷剤の上に置くだけでも冷え方が全然違いますよ。高齢の親が食べやすい作り置きの工夫はこちらでも紹介しています。
小分け急冷には、電子レンジも冷凍もそのまま使える保存容器をサイズ違いでそろえておくと続けやすいです。施設の厨房でも「浅く・小さく分ける」が鉄則ですが、ジップロックのコンテナーは軽くてフタも閉めやすいので、握力が弱くなってきた親世代にも扱いやすいですよ。ジップロック コンテナー バラエティアソートをAmazonで見る
親の冷蔵庫は「責めずに入れ替える」|もったいないと捨てない親への声かけ
実家の冷蔵庫を開けたら期限切れの食品だらけだった。在宅で介護をするご家族から、本当によく聞く話です。食中毒予防の「つけない・増やさない」の入口は冷蔵庫の整理ですが、やり方を間違えると親子げんかの火種になります。ここで「なんで捨てないの」と責めると、親は冷蔵庫を見せてくれなくなります。おすすめは次の3つです。
- マスキングテープと油性ペンで開封日を書いた「日付シール」を貼る
- 早く食べるものを手前1列に置く「手前1列運用」にする
- 古いものは黙って入れ替え、「新しいのと交換しておいたよ」とだけ伝える
戦中戦後を生きた世代にとって「もったいない」は、長年の暮らしが作り上げた大切な価値観です。正論で論破しても、親のプライドを傷つけるだけで行動は変わりません。責めずに、仕組みで親の体を守ってあげてください。
【佐藤ヘルパー(訪問介護歴8年)からのひとこと】
訪問介護の現場では、期限切れの食品をどうしても捨てられない利用者さんによく出会います。以前、3か月前の佃煮を大事に取っていた方に「もったいないですもんね」とまず気持ちに共感し、新しい小さいパックと入れ替える方法に変えたら、すんなり受け入れてくださいました。ポイントは「捨てる」を見せないことです。ご家族も、ゴミ袋は親の目に入らないよう持ち帰るくらいの配慮があると、関係がこじれませんよ。
親が一人で食べる昼食と配食弁当の食べ残しルール
日中、親が一人で食べる昼食は家族の目が届かず、食中毒の予防が手薄になりやすい時間です。配食サービスのお弁当は届いたらすぐ食べるのが大原則。常温の部屋に2〜3時間置かれたお弁当は、見た目やにおいが平気でも菌が増えています。厨房で作る側から言うと、お弁当は「届いた瞬間がいちばん安全」で、そこから先は時間との勝負なんです。
そして食べ残しは、冷蔵庫に戻さず処分するのがルールです。一度口をつけたおかずには菌が移っていて、夕方に食べると食中毒の原因になりやすいからです。電話やメモで「お弁当が来たら、先に食べてね。残ったぶんは無理しないで捨てていいからね」と声をかけておくと、親も迷いません。食欲が落ちる時期の昼食対策は梅雨に食欲が落ちる親への対応も参考にしてください。
食中毒かもしれないときのサインと受診の目安
予防していても、食中毒かもしれない症状が出ることはあります。もし親に下痢や嘔吐(おうと)が出たら、下痢止めを自己判断で飲ませないでください。菌を体の外に出すのを妨げる場合があるとされています。水分は経口補水液をスプーン1杯ずつ、少量を何回にも分けて与えます。一度にたくさん飲ませると吐き戻しやすいので、焦らないことが大切です。嘔吐があるときは、吐いたものが気管に入る誤嚥(ごえん)を防ぐため、体を横向きに寝かせます。
高齢者は体の水分量がもともと少なく、下痢や嘔吐で脱水が一気に進みやすいとされています。次のサインが1つでもあれば、ためらわず受診してください。水分が取れない、ぐったりしている、血便が出た、嘔吐が半日以上続く、意識がはっきりしない。夜間や判断に迷うときは救急相談ダイヤル「#7119」に電話を。もともと水分を嫌がる親への対応は水を飲まない高齢者への対策にまとめています。
経口補水液は、症状が出てから買いに走っても間に合わないことが多いので、実家の冷蔵庫や台所に数本置いておくと安心です。私も施設の備蓄と同じ感覚で、夏が来る前に実家へまとめて届けるようにしています。経口補水液 OS-1(500ml×12本)をAmazonで見る
平日5分でできる食中毒予防チェックリスト
仕事帰りや電話のついでにできる、台所の衛生管理チェックです。次の5つだけ確認してみてください。
- 冷蔵庫の手前1列に期限切れがないか
- 開封した食品に日付シールが貼ってあるか
- 鍋やフライパンが常温で放置されていないか
- 配食弁当の食べ残しが冷蔵庫に戻っていないか
- ふきんとスポンジが湿ったまま臭っていないか
全部やらなくて大丈夫です。まずは冷蔵庫の手前1列だけ。そこが整えば、高齢者の食中毒予防は半分できたようなものです。食事は親にとって最後の楽しみですから、安心して食べられる台所を一緒に作っていきましょう。
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介護が始まったばかりの方は、40代で親の介護が始まったら最初にやることもあわせてどうぞ。

