介護中の父の日、私が選んだプレゼントと過ごし方|40代当事者の正直な記録

公園のベンチに並んで座る高齢の父と中年の娘の後ろ姿 体験談・インタビュー

公園のベンチに並んで座る高齢の父と中年の娘の後ろ姿

父の日が近づくと、毎年5月の終わり頃から、私はそわそわします。理由は、介護を始めて2年目の今年、父にどんなプレゼントを贈ればいいのか、正直に言うとまだ「正解」がわかっていないからです。

40代になって親の介護が始まった私にとって、父の日や母の日は「ふつうのギフト記事」では参考にならなくなりました。父はもう、立派なネクタイをして出かける人ではないし、お酒も医師から止められています。ステーキも喉に詰まらせるリスクがある。それでも、何かを贈りたい。何かを一緒に過ごしたい。そんな気持ちは、介護が始まる前よりむしろ強くなりました。

今回は、私が今年の父の日に向けて実際に選んだプレゼントと、選ばなかったもの、そしてプレゼント以上に父が喜んでくれた「過ごし方」を、40代介護当事者として正直に綴ります。同じように悩んでいる方の、ささやかなヒントになれば嬉しいです。

介護中の父の日、何が「正解」かわからなかった

父が要介護2になったのは、去年の春のことでした。脳梗塞の後遺症で左半身に麻痺が残り、好きだった日曜大工も、晩酌も、運転も、すべて諦めることになりました。最初の父の日は、私は何を贈ればいいのかわからず、結局「いつもの父の日」と同じように、地酒を贈ってしまいました。

父は黙ってそれを受け取って、笑ってくれましたが、母から後で電話がありました。「お父さん、もうお酒は飲めないのよ。あれ、たぶん仏壇に上げると思う」。私はその夜、ベッドの中で少し泣きました。父のことを、私はちゃんと見ていなかった。元気だった頃の父に贈っていた、ということに気づいたからです。

介護中の父の日に「正解」はないと、今は思います。でも「今の父」をちゃんと見て選ぶ。これが去年の私が見落としていたことでした。

私が選んだプレゼント3つと、選ばなかった理由

今年、私が父に贈ろうと決めたのは、次の3つです。どれも価格でいえば派手ではありません。でも、選ぶ時に「今の父」のことを、私なりにちゃんと考えました。

① 軽くて滑り止めのついたルームシューズ

麻痺が残っている父は、室内で何度かヒヤッとする場面がありました。介護用品店で選んだのは、つま先まで覆われていて、足の甲がマジックテープで調整できるタイプ。デザインも介護用品らしくないものを選びました。父はおしゃれだった人なので、見た目も気にしてあげたかったのです。

② 父と母の若い頃の写真を入れたフォトフレーム

これはケアマネジャーさんから、「ご本人が会話のきっかけにできるものは、回想法という意味でもおすすめですよ」と教わって思いついたものです。母が物置から探してくれた、結婚した年に2人で撮った白黒写真をデジタル加工して、シンプルな木製フレームに入れました。リビングのテレビ横に置けるサイズにしたのもポイントです。

③ 父が好きだった俳優の映画のブルーレイ

父は若い頃、高倉健の映画が大好きでした。実家のテレビは介護のためにレンタルしたケアベッドの正面に置き直しているので、ベッドから映画を見られる環境にすでにあります。長時間集中するのは難しくなっていますが、好きな場面だけでも見られたら、と思いました。

逆に、選ばなかったものもあります。お酒、辛い食べ物、固いお菓子、香りが強すぎる入浴剤、複雑な操作が必要なガジェット。どれも父が元気な頃なら喜んでくれたはずですが、今の父にとっては「使えないもの」「危ないもの」になってしまうことに気づきました。元気だった父の好みではなく、今の父の生活に置いて使えるか。私はそこをいちばん大事にしました。

プレゼントよりも喜ばれた「過ごし方」3つ

去年の父の日で気づいたのは、父が本当に喜んだのは、地酒よりも「私が実家に泊まったこと」だったということです。今年は、プレゼント以上にこの「過ごし方」を意識しています。

① ゆっくり話す時間を「予定」として確保する

介護を始めてから、私は実家に行っても、つい家事や介護記録、ヘルパーさんとの打ち合わせで時間が過ぎてしまいます。今年の父の日は、あえて午後の1時間を「父と話すだけの時間」として予定表に書きました。テレビを消して、父の隣に座って、昔の話を聞く。それだけです。

② 古いアルバムを一緒にめくる

これは回想法の入り口にもなりますが、それ以上に、父が「自分の人生を覚えてくれている誰か」がそばにいることを感じられる時間です。父は写真を見ながら、私が知らなかった話を少しずつしてくれました。仕事のこと、戦争のこと、母との出会いのこと。プレゼントでは絶対に渡せないものを、その時間にもらった気がしました。

③ 「ありがとう」を言葉で伝える

介護をしていると、父に対してつい「お父さん、これダメ」「危ないよ」と注意ばかりしてしまいます。今年の父の日は、注意の言葉ではなく、感謝の言葉を1つでも多く伝えると決めました。「育ててくれてありがとう」と面と向かって言うのは、40代になっても恥ずかしい。でも父の日くらいは、その恥ずかしさを乗り越える日にしようと思います。

遠距離介護・施設で会えない父の日にできること

私のように同じ市内に住んでいるならまだしも、遠距離介護をしている方や、父が施設に入所している方は、父の日に直接会えないケースも多いと思います。私の友人の40代女性は、東京から九州の父に父の日のプレゼントを送り続けています。彼女がやっていることを参考に、いくつか紹介します。

1つは、ビデオ通話の時間を父の日前後にあえて長めに取ることです。スマホ操作が難しい父にはヘルパーさんやケアマネさんにあらかじめ協力をお願いし、画面越しに孫の顔も見せると、父はとても喜ぶそうです。2つ目は、孫の手紙を一緒に送ること。父にとって、子の言葉より孫の絵やひらがなの手紙のほうが響くことがあるそうです。3つ目は、父の好きだったものを「食べやすい形」に変えて送ること。たとえばご当地のお煎餅を、軟らかい煎餅やふんわりした和菓子に置き換えて送るのです。

会えないことを後ろめたく感じる必要はありません。会えない距離からでも、父の日にできることはたくさんある。私はそう思います。

来年に向けて、今年の父の日で気づいたこと

介護中の父の日は、毎年「今の父」を見直す日になりました。去年の父はお酒を仏壇に上げ、今年の父はルームシューズと写真と古い映画を受け取る。来年の父はどうなっているかわかりません。もしかしたら、もっと体力が落ちているかもしれない。あるいは、リハビリで少し回復しているかもしれない。それは父の日が来てみないとわからないことです。

だから私は、毎年5月の終わりに「今の父」と向き合う時間を持つことに決めました。父の日は、介護をしている40代にとって、ただのギフトイベントではなく、親と自分の関係を1年に1回見直す節目なのだと思います。プレゼントは派手じゃなくていい。ただ「今の父」を見て、「今の私」が選んだものを、今年も渡しに行きます。

同じように悩む方が、少しでも肩の力を抜けますように。父の日が、介護をしているご家族にとって、優しい時間になりますように。